街を歩いていると、外観のデザインを見ただけで入ってみたくなる魅力的な建築に出会うことがあります。「外観探訪部」は、そんな気になる建物の外観にフォーカスし、家づくりのアイデアを学ぶ企画。思わず足を止めてしまう外観デザインから、その魅力の秘密を探ります。
日本的な観光地に佇む、モダンなキューブ型の外観。
美しい景観が人々を魅了する新潟の観光地に、独特な存在感を放ちながら佇む古着屋「mushroom」。価値の高い品を求めて国内外から人が訪れる古着の名店です。20年前に新潟市内にオープンし、その後現在の場所に移転。移転先で店主がゼロから作り上げた外観デザインから、家づくりのヒントを探ります。
POINT1:緑豊かな風景に映えるニュアンスグレーの塗装
「観光地で古着屋をやってみたい」という念願を叶えるため、店主の土田さんが2つ目の拠点として選んだのは、大きな神社がありパワースポットとしても知られる弥彦村。店は弥彦の観光拠点でもある「おもてなし広場」という場所のすぐ隣の、元々は更地だった場所に建てられました。
2階建ての店内を囲うのは、グレーで塗装された壁。剥き出しのコンクリートの無骨さとはまた少し違った、独特の質感を感じさせます。
「訪れる皆さんには『あえて街と異質な感じにしたんですか?』と聞かれることもあるんですが、僕としては街に調和させたつもりで(笑)イメージは最初から和モダンでした。」
土田さんがそう話すように、緑に囲まれ日本風の造りが立ち並ぶのどかな雰囲気の中で、キューブ型の建物は不思議と違和感を感じさせることなく、ずっと前からそこにあるような穏やかな空気を醸し出しています。
POINT2:人と空間を繋ぐ大きな窓
正面と側面、印象的な2つの大きなガラス窓。外から中の様子がなんとなく伺えるのはもちろん、中から見上げると美しい里山の景色をまるで絵画のように切り取ります。設計段階から山の風景を写す窓のイメージが頭の中に浮かんでいたそうで、天高を生かして窓を最大限大きくすることで、理想の風景が作り上げられました。
ガラスを囲うフレームも、ほとんど存在感を感じさせないシンプルなもの。ガラスの透明感とソリッドなグレーの壁のコントラストが際立ちます。
大きな窓を設置したのは、訪れる人への配慮でもあります。外から中の雰囲気を気軽に覗けることで入りづらさを払拭するのと同時に、中に入ってもお客さんと店員さんとの間に程よい距離感を感じさせ、自由に店内を歩き回れる空気を生み出すことにこの窓が一役買っているんだそう。
POINT3:古着屋らしからぬ、和のあしらい
弥彦は日本でも随一の紅葉の名所。街とmushroomを繋ぐ玄関にも、立派な紅葉の木があります。これは、弥彦で外構の仕事をする土田さんの同級生の強い勧めで植えられたものだそう。「予想以上に育ってしまっていて」と言うように、生命力溢れる様子で枝葉を広げています。
紅葉の間から覗くのは「古」と「繕」の文字が書かれた入り口ののれん。海外から商品が集まるお店だからこそアメリカンな雰囲気になりがちなところを、あえて弥彦の街に合わせた和風のあしらいで仕上げたそう。モダンなグレーの外観に紅葉やのれんの風流なアクセントが加わることで、親しみやすく瀟酒な雰囲気が演出されています。
大胆な設計と細やかな演出の絶妙なバランスで構成されたmushroomの外観。街の気持ちいい空気をそのまま取り込むような店内も、古着マニアでなくても一度は訪れるべきと思わせてくれます。街と自然に調和しその一体に新しい空気を漂わす外観デザイン。ぜひ家づくりの参考にしてみてください。
Photography/菊池 貴裕