街を歩いていると、外観のデザインを見ただけで入ってみたくなる魅力的な建築に出会うことがあります。「外観探訪部」は、そんな気になる建物の外観にフォーカスし、家づくりのアイデアを学ぶ企画。思わず足を止めてしまう外観デザインから、その魅力の秘密を探ります。
那須という土地が好き。想いを物語る外観デザイン
栃木県の那須町にお店を構える「WHITE NOTE」。使いやすさも手に取った心地もじっくりと吟味され、長く愛用したくなる生活道具が並びます。そのお店の外観は無機質なグレー。それでいて、不思議と人々を呼び寄せます。今回は、自然豊かな町の景観に溶け込み、寄り添いながらも視線を誘う佇まいから、家づくりのヒントを探ります。
POINT1:土地に溶け込む、三角屋根と横長の佇まい
緩やかに傾斜するガルバリウムの三角屋根と、潔いまでに横長のシルエット。店主の井下田さんは「実はこの佇まい、牛舎をイメージしています」と明かします。
「地元の千葉から移住したくらい、那須という土地が好きなんです。この店を開いたのも、場所が那須であることありき。去年の3月に少し離れた場所から移転しましたが、何よりもこだわったのは土地です。那須らしい景色を望める場所に店を出したくて」
牛舎をモチーフとした外観も、土地へのリスペクトから。なぜなら、那須町は酪農が盛んな地域。土地の文化に敬意を払った三角屋根と横長のシルエットが、行き交う人の興味をそそる。那須に溶け込むためのアイデアが、お店の個性を形づくっています。
POINT2:地面の景観をも取り込む、ワイドな開口部
「那須で商いをする以上、那須の自然を邪魔したくない」——。店主の言葉を物語っているのが、敷地に生えた草。土地の景観を加工することなく、ありのままを選択。よく手入れされていることから芝生にも見えますが、正真正銘の雑草だそう。
背後に広がる森林のみならず、雑草さえも外観の一部としているのが、お店のエントランスとガラス窓の下、つまりは床下に設けられた開口部。地面の景色までもが外観と一体化し、床下の開口は商品を湿気から守るためにも機能しているといいます。
さらにエントランスの開口部は、ちょっとしたテラスとしての役割も。お客さんがゆったり景色を眺めたり、このスペースで年に数度のガレージセールを開催したり。ワイドな開口部は、機能性と景色と調和した佇まいの美しさを兼ね備えています。
POINT3:生活道具が看板になる、セメント塗装の外壁
牛舎をモチーフに自然の景観を取り入れた佇まいが視線を誘う一方、外壁はあくまでも無機質。密着性の高いジョイントVを下地にセメント塗装し、凹凸のない仕上がりに。この無機質さももちろん、周辺に広がる自然の景観を邪魔しないためです。
「一方、この無機質さがあるからこそ、うちが生活道具の店であることを打ち出せます。というのも、個人的に看板が好きじゃなくて。でも、外壁が無機質なら、そこに飾った商品が目立つ。外壁にディスプレイした生活道具がそのまま、うちの看板です」
グレーの外壁に並んだホウキやブラシにちり取りが、WHITE NOTEの看板。さらには無機質な外壁に大きなガラス窓も映え、ついついお店の中を覗きたくなります。
外観のシルエットも色合いも、瑞々しい草木を覗かせる開口部も。土地の景観を邪魔しないことを第一に練り上げたアイデアが、確立された個性として光る。この調和と主張の絶妙なバランス、ぜひ、家づくりの参考にしてみてください。
photo/宮前一喜 text/大谷享子