ペントハウスのような小屋が屋上に。
街に溶け込む、建築家夫妻の一軒家
街を歩いていると、外観のデザインを見ただけで入ってみたくなる魅力的な建築に出会うことがあります。「外観探訪部」は、そんな気になる建物の外観にフォーカスし、家づくりのアイデアを学ぶ企画。思わず足を止めてしまう外観デザインから、その魅力の秘密を探ります。
個性的だけど街の風景にしっくり馴染む、
周囲の家の仲間になる一軒家。
建築家夫妻が住む古くからの街には小さな住宅が並び、緑もそれほど多くありません。そこに8年前、街の歴史を尊重しながらちょっと更新するような家が建てられました。緑が少ない分、路地のような庭で家を縁取るといった工夫により、街の一部になるような設計がされています。個性的だけど奇抜ではない。建築家の知恵による塩梅の良さが感じられる、外観デザインから家づくりのヒントを探ります。
POINT1:周囲の環境に馴染むカタチとガルバリウムの外壁
まわりは1階に商店や工場があり、2階が住居になっている職住一体の2階建ても多い、都心の第一種住居地域。建築家の中村俊哉さん&藤井愛さん夫妻は、そんな街の環境に自然と馴染む家づくりをしたかったと言います。
「なので、外からみると2階建ての上にポンっとペントハウスがのっかっている家に見えるようにと考えました。周囲の家の仲間になるようにしたかったんです」と、中村さん。
それは環境に溶け込み、この街に帰ってくるのが楽しくなるようにしたいという思いからだったそう。
そのためには悪目立ちしないことも大切。外壁のボリュームゾーンにはガルバリウム鋼板を巡らせ、ペントハウス的な部分には内装にも使っているフレキシブルボードを使っています。それにより威圧感を与えない軽やかさを演出しています。
POINT2:長い軒も薄くすることで軽やかに
さらに、外観を眺めていて気になるのが軒の長さ。屋上では西側に大きく張り出し、ガレージにも屋根になるかのように長く突き出しています。
「屋上は屋根がないと昼間は直射日光があたって長い時間、滞在できないんです。軒を長くすることで日陰ができるので、そこにテーブルを置いて食事を楽しんだり、本を読んだりする。屋外リビングのような居場所がつくれるんです。それと同じ文脈でガレージ側にも、自転車や車を雨風から守る軒をつけました」
それでも重たく感じないのは、驚くほど薄く作られているから。
「通常だとこれだけ大きいと厚みもかなり出てしまい、ぼってりとしてしまいます。でも、なるべく軽やかに見せたかったので、ここだけ鉄で骨組みを作り、ギリギリまで薄くしています」
POINT3:家をぐるりと囲む路地庭の存在
玄関は、道路から路地のような庭をちょっと入ったところにあります。透明のガラス扉にすることで、ここも内と外をきっぱりと分けるのではなく、街の風景の一部にも感じられます。
その街や隣家との間を取り持っているのが、人ひとりが通れるくらいの狭い路地庭。これは2人のオリジナルのアイデアでもあります。
「路地庭の発想はお隣さんの親子世帯の家からインスピレーションを得ました。2世帯でそれぞれの家が通路のような庭でつながっています。それを見て庭を路地のようにするというアイデアが生まれました」と、藤井さん。
都市部では隣地側は閉じてしまうことがほとんど。そこに庭を作って逆に開くことで内側からは視覚的な広がりを、外からはふと入ってみたくなる親しみやすさをつくっています。
家が生活の場である限り、街とは切っても切り離せないもの。近隣の家に合わせたカタチや、路地を抜けるような感覚。圧迫感を与えない軽やかさといったディテールの積み重ねによって、風景に溶け込む外観になっています。家は単体ではなく、街の一部でもあるという考えが、その場所に住む心地よさをより鮮明にしてくれるのかもしれません。ぜひ家づくりの参考にしてみてください。
Photography/上原未嗣 Text/三宅和歌子