DATE 2023.12.21

時間とともに変化する外壁。
光によってさまざまな表情を見せる木造教会

街を歩いていると、外観のデザインを見ただけで入ってみたくなる魅力的な建築に出会うことがあります。「外観探訪部」は、そんな気になる建物の外観にフォーカスし、家づくりのアイデアを学ぶ企画。思わず足を止めてしまう外観デザインから、その魅力の秘密を探ります。

光によって変化する表情と
年々深まる味わいに惹きつけられる木造教会。

JR静岡駅からほど近い場所に位置する駿府教会は、130年以上もの歴史があるプロテスタント教会。2008年に現在の地へ移転することをきっかけに、建築家の西沢大良さんによって建物のデザインが一新されました。一見教会には見えないシンプルな外観には、訪れる人や街の人々に開かれた教会であること、自然物のように時が経つにつれて変化していくといった考えが込められています。そんな外観デザインから、家づくりのヒントを探ります。

POINT1:木の箱が置かれたような、景観と馴染むカタチ

駿府教会が現在の姿に生まれ変わったのは、15年前のこと。礼拝堂と執務室、牧師である中村恵太さんの住まいが一体となった特徴的な建物は、建築家の西沢大良さんが手がけました。

「ここで牧師をすることになったのは完成後でした。クリスチャンでいらっしゃる西沢先生が、情熱を持って手がけてくださったと聞いています。ここに建てることになったのは、より多くの人に足を運んでいただけるよう、駅から近い土地を探したそうで。線路沿いのため防音のことを考え、側面に窓をつくらないシンプルな木張りの外観になりました」

コーナー部分に入り口を設けたことで、目の前を通る歩道だけでなく、線路の向こう側からも間口の開いた印象に。

「初めていらっしゃる方や礼拝に来られた方に聞くと、中に入りやすい雰囲気だったと言ってくださることが多いんです。駅が近く踏切が目の前にあることもあり、さまざまな方向から人が行き交う立地なので、自然と目に入ったり体が向くのかもしれませんね」

手前にある立方体の建物が礼拝堂、奥にある三角屋根の部分が執務室と住まい。礼拝空間と住居がゆるやかにつながる造りは、線路沿いの角地に馴染みながらも人々の目を引きます。

「礼拝堂は一辺9メートルの立方体、住居部分は三角形をした切妻屋根になっています。すべて立方体にすると存在感が出すぎてしまうので、周りの景観と馴染むよう繋がりを持たせながらカタチを変化させたようです。住居部分の屋根を三角形にしたのは、日照を確保するという狙いもあったそうで、屋根の内側には日当たりのいい物干しスペースがあるんですよ。景観を保ちつつ暮らしやすさも考えられているんです」

POINT2:光が当たる角度によって表情を変える外壁

礼拝堂を構成する素材はすべて自然素材にするというのも、設計を手がけた西沢さんのこだわりでした。外壁は、塗装をほどこさないレッドシダーの割り肌板を採用。光の当たり具合で風合いが変化するのは、レッドシダー凸凹した質感によるものです。
「この設計にしたことで、施工の難易度がとても高くなったそうです。そんななか、杉山工務店さんが前任者や西沢さんの思いを形にしてくださいました」

「時間帯や天候によっても印象が変わるので、眺めていて飽きのこない外観ですよね」と中村さんは続けます。時間によって表情が移り変わっていくという点も、建物が周りの景観と調和するひとつの理由なのかもしれません。

「住まい部分の外壁には仕上げが施されていますが、教会の外壁は素材であるレッドシダーそのものの味わいを残しています。それにより時間が経つにつれて木が炭化し、外壁がダークグレーに変化していくとのこと。完成してから今年で15年ですが、住居部分に比べて色合いが変わってきているんですよ」

「外壁が暗い色合いになればなるほど、入口の扉やコーナー部分の十字架がより鮮明に浮かび上がってくるので、数年後はどんな表情になっているのかすごく楽しみなんです。建築家の方や建築好きな方もよく見学に来られるのですが、みなさんもこうした変化を楽しみにされていますね」

POINT3:キリスト教のシンボルがさり気なく一体になったつくり

コーナー部分の十字架も、光によって変化が見られます。

「外壁と一体になるようにさりげなく設置された十字架が、ある方角から見たときにだけきらっと光るんです。自然の光が織りなすそのさまを見るたびに、駿府教会らしくていいなと感じますね。日が落ちた後はライトアップをするようになり、下から照らされる外壁と十字架の表情も独特で、そんな夜の外観もなかなか味わい深いですよ」

キリスト教とゆかりのあるぶどうの木のツタをデザインした門扉には、教会を訪れる人々への思いが表現されています。

「ぶどうの木は、キリスト教においてとても大切な植物です。門扉にあしらわれたツタには、実がなってないことに気がつきましたか? それは訪れるみなさんが木の枝として幹であるキリストにつながり、実を結んでいくという思いが込められています。ぶどうの実は、みなさん。そんな意味合いから、あえて実を付けていないんだそうです」

「移転してからは建物に興味を持って足を運んでくださる方も多く、本当に有難いですね。これからも時間を重ねながら、みなさんとともに歩んでいけたらと思います」

自然の素材を生かし、光を味方にした駿府教会の外観。立地や日当たりに着目して外観を考えていくと、思いもよらない発想が浮かぶかもしれません。ぜひ家づくりの参考にしてみてください。

Photography/川村恵理 Text/金城和子

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