DATE 2024.07.04

シンプルで現代的なカタチに古道具を合わせた、小さなカヌレ専門店

街を歩いていると、外観のデザインを見ただけで入ってみたくなる魅力的な建築に出会うことがあります。「外観探訪部」は、そんな気になる建物の外観にフォーカスし、家づくりのアイデアを学ぶ企画。思わず足を止めてしまう外観デザインから、その魅力の秘密を探ります。今回は外観だけでなく、店主こだわりの内観についてもご紹介。

現代的な建物とレトロな古道具が融合した
かわいらしいカヌレ専門店へ。

香川県・高松市にあるカヌレ専門店「As canele&. 瓦町店(アス カヌレ)」。店主の寺井 司さんが2023年にオープンしたこちらは、市街地に佇むこぢんまりとしたお店です。賃貸のコンテナをリフォームした店舗には、いったいどんなアイデアが込められているのでしょう。カヌレを思わせるレトロでかわいらしい外観と、古道具屋をイメージリソースにした内装デザインを紐解きながら、家づくりのヒントを探ります。

POINT1:店主の手仕事が込められた、異素材の組み合わせで魅せる外観

市街地に溶け込みながらも、ぱっと目をひく「As canele&. 瓦町店」の外観。キッチンカーからはじまった同店は、市内から離れた場所にある本店に続く2店舗目としてオープン。しゃれた外観からは想像できませんが、建物は元たこやき店のコンテナだというから驚きです。

「目をひく印象的な外観にする、僕が好きな古道具を使うことの2つを決めてお店づくりに取り掛かりました。シンプルで現代的なカタチの建物と古道具を融合させたら、思いのほかマッチしたんです」とは、店主の寺井さん。

カヌレは厨房がある本店から、毎日できたてを運んでいるそう。プレーンのほか、あんバターや鳴門金時、塩キャラメル、アーモンドプラリネなど多彩なフレーバーが

「お店のコンセプトは『今日も明日も、毎日食べてほしいカヌレ』。だからこそ、より身近なお菓子として親しんでもらいたいと思い、2店舗目は人の行き来が盛んな街の中心部を選びました」

外はカリッ、中はしっとりとした「As canele&.」のカヌレ。食べやすいサイズや素材にもこだわり抜いた一品は、開店して早々に街の人たちの評判に。

「カヌレって、とても繊細なお菓子なんですよ。季節や天候で生地の状態が変わるため、日々素材と向き合いながらつくっています。特に今日のような雨の日は、湿度が高くて外皮のカリッとした食感を出すのがなかなか難しい」

そう、お邪魔した日はあいにくの雨。普段は柔らかな白色をした外壁も、若干グレーがかっています。外壁について「雨の日ならではの色合いも、この建物の味わい深さ」と寺井さんは続けます。

地元の工務店『樹工舎(きこうしゃ)』の協力を得て、可能なかぎり自分たちの手で改装したという同店。外壁の色味は、古道具の優しい質感とマッチする白に決めました。

「雨が降ると、こうした大人っぽいテイストに変化するところも気に入っています。塗装は工務店さんに教わりながら、自分たちで。もとのコンテナに下地板を打ち込み、その上に防水シートとネットを貼ってから塗っています。塗装してみたら表面がつるっと仕上がったので、最後にブラシを使って磨き、ざらっとした質感を出してみました」

歩道からは見えないお店の左サイドは無塗装のままに。ベースがコンテナであることが分かります。

POINT2:外観をより印象づける、造作した庇(ひさし)とウッドデッキ

外観のアクセントとなっているのが、この特徴的なアーチ型の庇(ひさし)とウッドデッキ。これらは工務店のアイデアで設置したそう。

「コンテナという建物の特性上、入口が平面になるので、店内に雨が入らないように庇を取り付けました。素材は錆びないように加工した鉄。雨よけのために設置したんですが、結果的に鉄の質感と入口を包むようなアーチ型が外観の個性になりましたね」

ウッドデッキは古道具の建具に合わせて造作したもの。双方の質感がよく馴染んでいます

建具や入口の引き戸は、寺井さんが徳島にあるお気に入りの古道具屋で入手したもの。それに合わせて、L字型にウッドデッキを造作してもらいました。

「白色の建物だけでは外観が単調になるので、ウッドでL字型に囲ってはどうか? と工務店さんから提案いただいて。ぱっと見たときに締まりが出ましたし、お客さまが腰掛けられるスペースもできて一石二鳥でしたね。庇の鉄やこのウッドは、白のコンクリートと相性のいい素材をいくつか挙げていただいて決めました。材料費の兼ね合いも含めて、プロの知恵を借りながらいろいろな選択肢を知ったうえでチョイスできたのはよかったです」

POINT3:古道具と作家たちの作品が織りなす、温かみのある内装

店内は寺井さんが好きな古道具屋をイメージした、ほっと落ち着く空間。その根底には「カヌレの魅力を広めると同時に、人が集まる場としても親しまれる場所にしたかった」という思いがあります。

「温かみを出すべく、天井と床は杉の板張りに。杉は僕がホームセンターで購入したものを張っていただきました。くわえて壁は、柱を見せる真壁(しんかべ)を採用しています。日本家屋でよく見られる伝統的な工法なんですが、これによって昔ながらの道具がマッチするどこか懐かしい空間になったと思います。この雰囲気に合わせて、バックヤードと店内は建具ではなく暖簾で仕切ることにしました」

「可能な限り自分たちの手で」という思いから、壁の漆喰も自ら塗装。工務店に聞きながら壁に石膏ボードを貼るところからトライしたのだとか。

「外壁もそうですが、意外と自分でできるんだ! と(笑)。慣れない作業でしたが、とても楽しかったですね。ホームセンターに行けばバケツ入りの漆喰が販売されているので、例えばおうちの壁を変えたくなったら、案外手軽にDIYできるかもしれません。素人が塗るとムラも出がちですが、それも味になりますし、何より自分たちでつくっているという実感があっておもしろいですよ」

販売スペースの横にある窓は、壁をくり抜いて新たにつくりました。柱を見せた内装に合わせて、窓枠も手作り。店内にふんわりと自然光を取り込んでくれます。

カヌレが載っているプレートは、香川県の木材でつくられたもの

中央のショーケースは、寺井さんが「いつか使おう」と心に決めて、長年保管していた古道具。味わいのあるショーケースと、綺麗に並べられたカヌレとのバランスが絶妙です。

「ショーケースは、近くにある『ironmonger(アイアンモンガー)』という古道具屋さんで購入したお気に入り。いまではもうつくれない、古道具ならではの味わい深さに惹かれました」

高松で活躍する蠣崎(かきざき)マコトさんのペンダントライトや、香川出身のイラストレーター・宮嵜 蘭さんのイラストなど、香川県出身のアーティストによる作品も店内を彩ります。

現代的なシンプルなカタチの建物に、古道具やその土地ゆかりのインテリアを合わせた「As canele&. 瓦町店」。

最後に今後の展望を聞くと「ここが、街の人たちがコミュニケーションを取ったり、コミュニティが広がっていくきっかけになれば嬉しい」という返事が。「どんな場所にしたいか」という信念と、自らの手仕事をくわえることによる充足感も、長く愛せる家づくりにおいて大切なポイントになりそうです。ぜひ参考にしてみてください。

photo/木本日菜乃 Text/金城和子

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