DATE 2024.08.20

街に馴染む外観を。懐かしさと新しさを調和させたカフェ

街を歩いていると、外観のデザインを⾒ただけで⼊ってみたくなる魅⼒的な建築に出会うことがあります。「外観探訪部」は、そんな気になる建物の外観にフォーカスし、家づくりのアイデアを学ぶ企画。思わず⾜を⽌めてしまう外観デザインから、その魅⼒の秘密を探ります。今回は外観だけでなく、独自のプロセスで仕上げた内観についても紹介します。

ノスタルジーと新しい感性が同居する街で個性を放つカフェ

西日本随一の繁華街・梅田から地下鉄でひと駅。下町情緒溢れるノスタルジックな町並みと若手クリエイターらの新しい感性が同居するユニークなエリア・中崎町。この地に店舗を構えているのが、『neel中崎町』です。「都会的でありつつ温かみを感じられる店舗づくりをしたい」と話すのはNeelオーナーの瀧本さん。街の雰囲気とブランドイメージを調和させながら、ユニークな空間をかたちにしています。 そんな地域から愛されるカフェから外観デザインのヒントを探っていきます。

POINT1:独自のエイジングでアールのファサードをより個性的に

neel中崎町で印象的なのが、アールのファサードです。このデザインを採用したエピソードを瀧本さんはこう話します。

「この店舗で導入したスピーカーが、JORDAN WATTS社のFLAGONという製品でした。フラゴンとは、かつてよくワインなどを入れるために使われていた陶器の壺のこと。その特徴的な曲線からインスピレーションを受けて、アールのファサードを採用しました」。

neel中崎町は、アールの曲線だけでなく、質感も特徴的です。そこには、カフェならではのある工夫が隠されていました。

「アールのファサードは左官仕上げの後、スタッフの手によってエイジング加工を施しました。そこで使ったのが、カフェで使用するエスプレッソ。濃度を抑えた艶消し塗料にエスプレッソを混ぜ、全面に塗ることでほどよいヤレ感を生み出すことができました」

外観が出来上がる前にたまたまエスプレッソマシンの設置が完了したことから、スタッフの発案で採用されたアイデアだったそう。

POINT2:土地に馴染むよう、元の建物が持つ趣を残してリノベーション

古い民家をリノベーションしたneel中崎町。あえて2階部分の外観には手を付けず、ノスタルジックな趣を残すことで、印象的なデザインに仕上げました。

「この街に何年も前から佇んでいたような店構えにしたかったんです」と瀧本さん。中崎町という街に息づくレトロな雰囲気を崩さないよう、土地に馴染む外観を意識しています。

入口の建具や庇のディテールからも、中崎町の古い町家の雰囲気を大切にしていることがうかがえます。

POINT3:アドリブを楽しみながら、ライブ感を持って仕上げた内観

「信頼している工務店とともに現場で手を動かしながら、その場で湧き上がるアイデアを盛り込みつつデザインをつくっていきました」と瀧本さん。そんなライブ感あふれる独自のプロセスは内観づくりでも発揮されました。

たとえば、螺旋階段。限られたスペースで上階に上がっていく動線を確保するため、斜めに傾いた設計を採用することに。その中で、階段のステップを葉っぱのかたちにしたり、手摺りを枝に見立てたりと、作り手側の遊び心をデザインに反映しました。その結果、有機的でどこか温かみを感じさせる印象に仕上がっています。

ファサードのアールと同様にJORDAN WATTS社のFLAGON(写真右上に見えるスピーカー)にデザインの着想を得たことで、ニッチ棚などにもアールのディテールが採用されています。

ノスタルジックな空気感と創造性あふれるアイデアが印象的な『neel中崎町』。街の雰囲気と自らの個性を大切に、プロセスも楽しみながらデザインへと昇華していったようです。地域内外の多くの人を惹きつける外観デザイン。ぜひ家づくりでも参考にしてみてはいかがでしょうか。

Photo/ 櫛ビキチエ  Text/ 小林拓水

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