ストリートカルチャーに根づく、カッコよくて気持ちいい感覚を。
CHALLENGER・田口悟さんの空間遍歴
人が過ごす空間には、その時々のライフスタイルや好きなカルチャーが表現されるもの。
今回は、プロスケーターとして活躍し、その後アパレルブランド『CHALLENGER』を立ち上げ、デザイナーとしても活動している田口悟さんにインタビュー。 自身の根底にあるというアメリカのストリートカルチャーを軸に、これまでのライフスタイルや理想の空間について伺いました。
田口悟さん(〈CHALLENGER〉デザイナー)
アパレルブランド〈CHALLENGER〉で洋服のデザインを手がける。自身のイラストを描いたスケートデッキやバンダナも根強い人気を博し、その原画を展示する”BANDANALYZE”を日本のみならず海外でも開催をしている。秋に地元での個展も開かれる。
田口 悟 個展 「YOKOHAMA BAD BOYZ」
開催期間:9月14日(土) - 23日(月)
場所 : 株式会社根本建装内ギャラリー
神奈川県横浜市青葉区鴨志田町564-4 (鴨志田中央ENEOS隣)
スケートボードを通じて惹かれた、アメリカのストリートカルチャー
プロスケーターとして活動をし、その後ファッションシーンへと活躍のフィールドを広げてきた田口悟さん。そんな田口さんがストリートカルチャーに出会ったのは小学生の頃でした。
「僕が10歳くらいのときに、いわゆる第3次スケートボードブームが来て。周りの男子はみんなファミコンやケイドロと同じような感覚で遊ぶようになったんです。僕も母にねだって近所のホームセンターでおもちゃのスケートボードを買ってもらい、遊んでいました」
そんなとき、スケートボードに目覚めるきっかけが訪れます。
「近所に住んでいたお兄ちゃんが、1980年代に一世を風靡したスケーターのトミー・ゲレロのデッキに乗って坂を下りてきて『お前らが乗っているの、偽物だよ』って教えてくれたんです。試しにそのお兄ちゃんが乗っているデッキに乗せてもらったら、全然乗り心地が違った。すぐに“本物”のスケートボードを売っている店を教えてもらい、買いに行きました」
「負けず嫌いだから、誰よりも上手くなりたかった」という田口さん。そのお兄さんにスキルを教えてもらったり、トミー・ゲレロが登場する映画『The Search for Animal Chin』のビデオを何度も観たり。ひたすら研究を続けました。中学生にして近所の工事現場に出向いて職人さんから廃材をもらい、ミニランプを自作して、スキルの習得に励んだのだといいます。
「スケートボードって競技の側面もあるけれど、根本はカルチャーなんですよね。アーティストが描くグラフィック、ビデオで流れている音楽、スケートボーダーが着ていたファッション……そのどれもがカッコよくて、ストリートカルチャーに没入しながら真剣に遊んでいました」
アメリカ映画のビデオを観て、その真似をしていたという田口さん。ファッションやインテリアもアメリカンカルチャーにインスパイアされていたそう。高校時代の田口さんの部屋は、ハマっていた『スパイダーマン』をはじめアメコミのフィギュアで一杯の空間だったといいます。
アメリカンガレージ × 日本の和が、今の気分
高校卒業後、 AJSA(日本スケートボード協会)が主催する大会で年間ランキング1位になり、公認プロになった田口さん。ファッションブランドからスポンサードを受けたり、自らスケートチームを結成してアパレルのグラフィックも手掛けるように。その後、アパレルを深く学ぶためデニムの生産会社で働いたり、知人のプロスケーターのブランド立ち上げを手伝った後、2009年に満を持してアパレルブランド『CHALLENGER』を設立しました。
「コンセプトは、アメリカンガレージ。車、バイク、スケボー、楽器など、男子が何歳になっても愛情を注ぎ込むような遊び道具がガレージには眠っています。そこからいくつものカルチャーが生まれてきました。そんなシーンを空間やプロダクトを通じて表現していきたいと思うんです」
2009年2月に原宿に旗艦店をオープン。アメリカンガレージのニュアンスを汲みながら、“今”の田口さんの感性を反映した空間をデザインしてきたといいます。
「オープン以来、3回デザインを変更してきました。当初は完全にアメリカンテイスト100%の状態。でも、国内外を旅しているうちに日本のカッコよさにも気付いて。今は和のテイストも交えた空間にしています」
クリーム色とブルーのツートンカラーが特徴の店内。レトロなビルの外観に合わせて、室内はタイルを効果的に使用しています。また、由緒ある有田焼の窯元に製作してもらったという、ハーレーのタンクを象った古伊万里の壺がディスプレイされています。
CHALLENGER10周年を記念し、約270年の歴史を持つ有田焼の窯元『源右衛門窯』とオリジナルのバイクタンクとキャップを制作をするなど、和とアメリカンカルチャーの融合が象徴的なアイテム。
「正直、昔は和ってカルチャーが自分とは遠いと思っていたけれど、今はそう思わない。アメリカのストリートカルチャーが根底にありながらも、ステレオタイプに縛られない空間やプロダクトをかたちにしていければと思います」
理想の空間は、スケートパークとアトリエとガレージが一体化した場所
「かつて地元のお兄さんに影響を受けたように、自分も子どもたちに影響を与えたい」という田口さん。今も地域のスケートパークに出向くほか、2024年9月には実家が営んでいたクリーニング屋の跡地で、地元をモチーフにしたドローイングの個展を開催するといいます。
アメコミのフィギュアで部屋をいっぱいにしていた高校時代、そして『CHALLENGER』を立ち上げ「アメリカンガレージ」に和のエッセンスを加えた空間を作り上げた今、田口さんが思い描く理想の空間を聞いてみました。
「スケートパークとアトリエとガレージが1つになった空間をつくりたいですね。スケートボードに乗って、壁に絵を描いて、バイクを置くんです。昔、僕がつくった廃材のミニランプみたいに、ユーズド感のあるやれた風合いのウッドをふんだんに使えたりしたら、なんだかエモい(笑)。地元の子どもたちが自由にスケボーで遊んだり、アートに触れたりする場になったら最高ですね」
「SEAWARD HOUSE PROJECT」のリリースを記念して、
描き下ろしスケートデッキをプレゼント(※終了しました)
最後に、Doliveと雑誌OCEANSがつくる家「SEAWARD HOUSE PROJECT」のリリースを記念して、描き下ろしで製作したスケートデッキについて語ってもらいました。
「いつもグラフィックを描くときは、そのストーリーを思い描くんです。『SEAWARD HOUSE PROJECT』から浮かんだキーワードは、海、青い空、バイク。その3つの要素から自然と西海岸でバイクにまたがって佇むシーンが思い浮かびましたね。とにかく気持ちいい空気感を表現しようと考えました。ぜひ空間にディスプレイして、この“気持ちいい”感覚を味わってもらえたらと思います」