Dolive Doliveってなに?

建築家古谷俊一,古谷俊一 DATE 2020.03.23

その名も“インターバルハウス”。建築家 古谷俊一さんのグリーンと共存する温かい家 −前編−

昭和の面影を残す街並み、大森ロッヂ。その隣に建つインターバルハウスに、大森ロッヂの「運ぶ家」を手掛けた建築家・古谷俊一さんは暮らす。インターバルハウスは、植物やテラス、外との合間などを設けた〝間〟を楽しむ家。そんな自宅でご家族と心穏やかに過ごすために、設計する際にこだわったポイントと工夫を伺う。
古谷俊一さん

建築家・造園家。植物を主軸にした住宅や商業施設の建築設計、ランドスケープデザインを行う。昨年末にはベツダイDoliveとコラボした新商品「AM6 HOUSE」を発表し、現代の住まいに新しい息吹をもたらす。著書に「みどりの建築術 古谷デザイン建築設計事務所作品集」(エイ出版)。
古谷デザイン建築設計事務所

「〝建てる〟ってことがまず最優先でしたね」

ノスタルジックな街角再生プロジェクト、大森ロッヂ。建築家の古谷さんは、仕事として携わっていくなかで、ご自身もロッヂに隣接する地にインターバルハウスを建て、住まいを構えることになったという。

「大森ロッヂは、現代版の向こう三軒両隣を体現している賃貸長屋です。10年ほど前より築40~50年の木造リノベからスタートして、5年ほど前に新棟の運ぶ家を設計する機会を得ました。それからもオーナーさんとお付き合いしている中で家を建てる土地を探してると言ったら、次の日にこの土地が空いているというお話をいただいたんです」

空中に浮かぶ路地を彷彿とさせるテラススペース

左:インターバルハウス 右:<運ぶ家(大森ロッヂI棟)>(写真/山内紀人)

そうして<運ぶ家>の隣にできたインターバルハウスには、モノとモノの合間という意味合いが込められている。一本の路地を挟んで、2棟が並んで建つインターバルハウスと<運ぶ家>は、まるで双子のよう。

「運ぶ家をつくるときオーナーさんから、街に開く店舗付きの住宅をつくりたいという思いを聞いたので、敷地内の路地の雰囲気が外側にも伝わるような形を考えました。なので、インターバルハウスの2階と3階はテラススペースにして、<運ぶ家>の2階と同じように空中の路地に見立ててます。この2棟の路地がまるで繋がっているように見せることで目線が抜けて、建物と街がつながって見えるっていうのがねらいなんです」

アイデアの元になったのは、寺社の建築。インターバルハウスと<運ぶ家>の両方に、それぞれ軒柱を設けることで、寺社建築のような柱と縁台の関係を表現。そうすることで、街全体の庭のような空間を作ったのだそう。

「出来るだけ地面に植物を植えて、建築のハードなイメージを感じさせないことがやりたかった。よく谷中とかの路地に行くと、園芸好きのおばちゃんたちが鉢植えをいっぱい並べてるっていう風景があって、それが僕は好きなんですよね。みんなが少しずつ自分の〝好き〟を町に出していって、それが自然発生的に景観になってるっていうことが」

1階は用途で変えられるフレキシブルな設計に

自宅の1階のスペースは、サテライトオフィスとして活用。

「造園業のような植物の仕事もしてるんで、その養生場として使ってる。日当たりがすごくいいんで、お客さんのところで弱ってしまったインドアグリーンを戻してあげるとか。あと、この間みどり市っていう植木市みたいなのをやったんです。緑と街の繋がりみたいなのを設計的にもコンセプトにしてるんで、その取り組みでこの場所を使って」

1階には他にも、キッチンやトイレ、畳スペースを備えていて、ゲストルームとしても活用できるような計算がされているという。

寝室バストイレを集約して快適に過ごせる2階

住居スペースは2階と3階。アトリエの裏側にある階段を登ると2階の玄関にたどり着く。

玄関を開けて各部屋へと続くスペースは、家の中でも外でもない曖昧な印象。どことなく外の路地の余韻を残したような雰囲気こそが、古谷さんこだわりのポイント。

「2階は外っぽいデザインにしたかったんで、家のなかの路地空間みたいに。照明は天井につけないで、行灯みたいにしてます。夜はね、雰囲気が出ます」

各部屋には、ひねらなくても開けられるドアノブを採用。そんな細部のディテールにも、路地の一角のように見せるためのアイデアが光る。

2階玄関先にあるマンガ棚

3階リビングにある本棚

実は、家族全員が読書好き。玄関横の書庫や廊下など、2階と3階にわたり分散して設置された本棚には、愛読しているマンガや文庫本がずらり!

「2500冊ぐらいあるかな。ぜんぶで3軍あって、ここ2階の玄関先にあるのは2軍で、よく読む1軍はリビングの本棚にあります(笑)」

家族内で好きな本はシェアするのだそう。漫画の話になれば自然と大盛り上がり。

階段下のデッドスペースを上手に活用しながらも、威圧的だったり窮屈だったりといった印象がまったくないのは、あまり角を作らず、カーブを効果的に取り入れているから。

「丸いのが好きなんです。建築ってどうしても直角がいっぱいできちゃうんですよ。だから、緑を増やしてあげたり丸い角をたくさん仕込んだりして、ちょっと偉そうな感じを和らげたりしてるんです」

大きな窓のある3階は開放的な気持ちの良い空間

インターバルハウスの設計は、3階のルーフバルコニーから始まったのだそう。

「『屋根のない大きいバルコニーはぜったい欲しい』っていう妻からの要望が、ここの設計の出発点なんです。だから、それに沿った階段があって、っていう全体的なプランニングになってますね」

そのルーフバルコニーからひと続きになったリビングは、陽の光が差し込んで開放的。ダイニングとも繋がる広々としたスペースで、それぞれの家族が自由に過ごせるように、テレビの設置ひとつにも工夫が。

「ここの壁に取り付けたテレビは、アームで壁付けしていて、ダイニングテーブルの方向に液晶を出せます。これが出ないと、ダイニングのスペースが死んじゃうんですよ」

3階のリビングから外の景色を楽しめる大きな窓は、角に庭を作り、近隣の家の窓と真正面にならないように角度をつけることで、外部からの視線をやんわりと遮ることができる。

「建築で特徴的なのは、露出している柱ですね。燃え代設計っていって、もし火事になって周りが焼けたとしても芯が残って倒壊したりせずに済む。この辺りは準防火地域なので隠さなければならないんですよ、本来。それをあえて出すことで、誰が見ても構造がわかりやすいようにしてます」

住まいのあちらこちらに建築家ならではのアイデアや工夫を盛り込み、デザインと実用性、さらには多様性を宿らせた古谷さんのご自宅。後編では、プライベートでの暮らしぶりや日本の住居事情について思うことなどを詳しく伺う。
 

後編はこちらから↓

Photographs/原田数正 Text/白﨑寛子