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最初から100点じゃなくていい。
こだわりあるからこそ作りすぎない、BEAMSコミュニケーション ディレクター 土井地 博さんの住まい。 ー前編ー

DATE 2020.09.14 ようこそ私の家へ
セレクトショップの草分けでありながら、いまなお業界の先頭をひたはしるBEAMS。BEAMSの顔として20年来宣伝PRを行い、現在はグローバルアライアンス部を統括する土井地さん。
2年前に建てた念願の一軒家には、たえず“いいモノ”に触れてきたがゆえのまなざしが見え隠れする。いっぽうでこだわりや一家言があるからこそ、家づくりにおいては、ことさら“完成”にこだわらなかったという。個性派集団BEAMSの、スタイルサンプルの一例を拝見する。
土井地 博さん

1977年生まれ。BEAMS 執行役員 経営企画室 グローバルアライアンス部長 兼 コミュニケーションディレクター。ラジオ番組「BEAMS TOKYO CULTURE STORY」のパーソナリティも務める。

自分、妻、娘ふたり。家族がのびのびと暮らせる場所。

住まいを建てたのは、およそ2年前。その前は、郊外のマンションに10年ほど暮らしていたという。「マンション暮らしに不便はありませんでしたが、ちょっと違う生活をしたくなって」と、都会の真ん中に移り住むことを決めた。職場へのアクセスや友人宅との距離などから、狙いすましてその場所に決めたわけだが、第一には、家族の存在があった。

「家に一番長くいるのは妻。また娘たちのためにも、のびのび暮らせる環境と利便性を兼ね備えた場所を探していました」

「車での都心へのアクセスも意外にいいこと、大きな公園以外に緑道もあって、まわりに緑が多いことなど、ここに暮らしてみてはじめて気づいた魅力も、案外多くて。まあ、『住めば都』というだけのことかもしれませんが(笑)」

最初から100点の家じゃなくていい。
未来の可能性にオープンな住まい。

家を新築すると決めるまでには、建売の購入、ヴィンテージマンションのリノベーションなど、さまざまな選択肢を検討した。そもそも、「建てる」という選択は一番イメージしていなかった、と振り返る。

「でも、たとえば建売だと、基本的に収納がぜんぜん足りないんですよね」

とくにスニーカーの愛好家である土井地さんにとって、靴の収納にはどうしてもこだわりたかったポイント。実際、玄関を入ってすぐは土間になっていて、左手の壁は、なんと一面収納に。「プッシュ式」であることも必須条件だったが、重量のある一枚扉でそれを実現するためには、施工会社に無理を言ったとか。

「スニーカーは少なくとも100足以上はあって、これだけ収納があっても、すでに中はテトリス状態……。娘たちには、『足は2本しかないよ』なんて呆れられています(笑)」

新築を選ぶ際のもっとも大きな決め手になったのは、木造スケルトンを得意とする施工会社との出会いだった。

「最初から100%完成した家に住むのではなく、生活環境や趣味、時代の流れに沿って足していく。その考えに共感しました。

これまで仕事やプライベートでさまざまなモノを見てきたがゆえのこだわりはありますが、いっぽうで、家づくりに関しては素人。だからこそ、最初から決めすぎない方がいいと思ったんです。実際に暮らしていくなかで気づいたことを実践してみたり、子どもの成長に合わせて変えてみたり、いろんな可能性にオープンでありたかった。だから、いまはまだ60点くらいかな」

家を育てる、エイジングという魔法。

最初から100点でなくていい。そんな家づくりにおける哲学は、素材選びにも、しかるべく表れている。

「随所に、床材に合わせた色や材をあしらっています。たとえば照明スイッチのカバー。これは床のグレーに合わせてあとから選んだものです。マグネット式なので、もし気分が変わったとしても簡単に付け替えることができる。また、使うほどにスレたり、角が削れたりするものをあえて選んでいます。経年変化も楽しみですね」

「木造スケルトンなので、木材選びも慎重におこないました。まっすぐで歪まない材を、天井から窓の上部にかけては濃い色、床面に近い場所は空間が広く見えるように浅い色、と微妙にグラデーションをつけて選んだ。いい材を選ぶことで、味のあるエイジングも期待できます」

身近な同僚たちこそ、リアル・スタイルサンプル。

ところで土井地さんといえば、インテリア好きならずとも愛読家の多い『BEAMS AT HOME』の発起人。いまやシリーズ累計30万部以上、外国語版を含めて全6冊がリリースされている、ちょっとした伝説と言っても過言ないシリーズ。そんなベストセラーが生まれたのは、ある雑誌の特集企画が発端だったとか。

「雑誌『BRUTUS』で自転車特集が組まれたときのことです。BEAMSからひとり推薦してほしいと頼まれて、自薦他薦問わず、社内から応募を募ることに。

500件を超える応募のなかから最終的に選んだのは、一見自転車好きとは思えない内勤の女性スタッフ。でも、京都の老舗店のフレームに、BMX用のグリップ、海外でしか手に入らないラゲッジなどをカスタムしていて、意外性は群を抜いていました」

「その企画をきっかけに、個性あるスタッフをもっと紹介したいという気持ちが芽生えて。そこから、『BEAMS AT HOME』が生まれたんです。だから、いわゆるインテリア本ではなく、スタッフたちの個性が数ページごとに凝縮された本。そういう実感があります」

かくして生まれた『BEAMS AT HOME』。土井地さんの宅の私物は、家を建てようと考える友人と一緒にページをめくることもあって、ところどころに付箋が貼ってあります。家づくりの参考にしたのは、もちろん、土井地さん自身もしかり。

「『エル・デコ』や『新建築』といったメディアも好きだし、情報として取り入れます。ただ、『こんな感じにしたいんです』と実際に施工会社さんに見せたのは、圧倒的にこの本でした。インテリアの色味や家具の配置など、一部のエッセンスを抽出して参考にすることが多かったですね」

「100点を目指さない」という肩の力の抜けた選択は、ひとえに、ファッション畑で長きにわたって培った経験のなせるワザ。はじめての家づくりにも、いたって冷静なまなざしを向けることができた。 後編では、家の中心的存在であるリビングに目を向ける。そこには、家族のだれもが、いつでも気兼ねなく時間をともにできる仕掛けがある。また、土井地さんのモノ選びの基準についても、もう少し掘り下げていく。

Photography/原田数正 Text/髙阪正洋