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石田勇介,toolbox DATE 2019.07.15

107㎡のワンフロアをリノベーション。toolbox・石田勇介さんの“間取りを編集する”暮らし

2010年に中古マンションを購入し、セルフ・プロデュースでリノベーションしたtoolboxの石田勇介さん。既存の概念やルールに捉われずに自由な感性でつくった住まいは、あっと驚く仕掛けや楽しく住まうためのアイデアが満載。画一的な発想にとどまらない、石田さんの好きなものに囲まれた暮らしを覗いてみましょう。

石田 勇介さん

空間づくりのプラットフォームとして、材料とアイデアを提供する内装ストア『toolbox』で商品開発や企画をおこなう。少年時代から押し入れや二段ベッドを改造するほどの、生粋の DIYer。アウトドア好きで、キャンプ、カヤック、釣り、料理、自転車、ドライブと多岐にわたる趣味を持つ。同郷の奥様とは結婚9年目になる仲良し夫婦。

toolbox公式サイト

テラスを囲むように、リビング、ダイニング、廊下、寝室、作業場を “コの字型” に配置した間取り。リビングスペースとプライベート空間を結ぶ廊下には本棚を並べ、ライブラリー化している

107㎡のワンフロアと2つの庭を、丸ごとセルフ・プロデュース

結婚を機に、家探しをスタートしたという石田さん。中古マンションのリノベーションに絞らず、新築物件も選択肢に入れて1年ほど探し回った結果、現在の住まいの“個性的な間取り”と“ふたつのグリーンスポット“に惚れ込み、購入を決めたといいます。

「テラスを囲むように、コの字型に配置した間取りにビビビッときました(笑)。寝室側には土の庭があって、5メートルを越える大きな木が生えているんです。抜け感があって開放的だし、こんな物件、なかなか見つからないよなって」

中庭に面した廊下には、本棚と奥様のドレッサーが。奥がプライベート空間になっている

内見時から「ここはこうしよう……」とアイデアが溢れて止まらなかったという石田さん。一方、新築派だった奥様は「う〜ん」と渋い顔。そこで当時、映像の製作会社で働いていた石田さんは、この空間がどう生まれ変わるかを自分の頭の中のイメージを視覚化して、何度もプレゼンを重ねたのだとか。結果、石田さんの熱意が伝わり、見事合意に漕ぎつけたそう。

「おかげで、物件購入前に(リノベーションの)プランをまとめた“発注書”のようなものができあがっていたので、自然な流れでセルフ・プロデュースすることになりました。職人さんには形にすることだけをお願いして、デザイン案、資材やパーツのセレクト・手配は自分でやりました。というか、既に手元にあったものも多かったんですけどね」

マーク・ニューソンのオルゴンチェアは、上京した時からずっと一緒。アイデアスケッチの収納場所としても活躍している

キッチン上の御影石が重すぎて、苦労して運び入れたのも今ではいい思い出だという

聞けば「いつか自分の家に置きたい」という視点で家具はもちろん、水栓やコンロなどの設備機器も10年かけて買い集めていたというのです。こうして画一的な発想にとどまらない、石田さんの自由な家づくりが始まりました。

秘密基地のようなバスルームは、アイデアの宝庫

「狭い空間に個々の機能を持たせるより、ひとつの空間を自由に使える方が暮らしが広がる気がしたんですよね」

壁をなくし、広々とした空間にしたのはそんな想いから。さらに「バスタイムは1日の中でも寛げる時間だから、できるだけオープンな空間にしたい」と、最もプライベートなエリアであるバスルームも開放感に満ちた空間にすることにしたといいます。

前面のドアは、基本開けっ放しで開放感を楽しんでいるそう

ガレージを参考につくったというバスルームは、半透明の波板「ポリカーボネイト」で囲み、前面を大きく跳ね上げると湯船が現れる仕組み。エントランスや廊下などのスペースと繋がっているため、オープンにして開放感を楽しむことも、半個室のような空間にすることもできるのが魅力だそう。

「天井にスピーカーを配備しているので、お風呂に浸かりながら音楽を聴いたり、タブレットで映画を観たり。迫力ある音を楽しめる点も気に入 っています。休日は『次はどこに手を加えよう?』と家づくりの構想を考えることも多いですね。不思議と、ここだとアイデアがたくさん湧いてくる気がします」

バスルームの隣は、まるで秘密基地のようなトイレ。写真右側の壁にはバスルームにつながる開口部を設け、開放感を演出

アンティーク家具が、カウンターキッチンに大変身

ふたり揃って料理好きだという石田さんご夫婦。料理の時間がより楽しく快適になるよう、キッチンにもコストと時間をかけたといいます。ここでもお風呂同様、常識に捉われず「自分たちがいいと思えるか」を基準に、唯一無二の空間をつくり上げていきました。

特筆すべきは、リビング中央に配したキッチンカウンター。ご夫婦の地元・福島にある古道具屋さんで見つけた、古い家具の天板をくり抜いて、シンクと電気コンロを設置したというから驚きです。

「キッチン用のカウンターでも良かったんですけど、好みのものが見つからなくて。大きいデスクだったら、きっと代用できるだろうと思ったんです。古くて味のある家具だったので、天板を抜く時は少し躊躇しましたけど(笑)。

壁付のキッチンにもコンロとシンクはあるのですが、ここにも設置して大正解。奥さんと、作業を同時進行する際もスムーズです。今は、自家製チャーシューづくりにハマっています。キッチンに立つ時間は、忙しい日々の中で無心になれる大切な時間ですね」

解体する際に出てきた導管。キッチンツールを吊り下げるバーとして活用。

使い終わった物を、新発想のインテリアに

コンクリートあらわしの壁や天井をそのまま活かした空間には、時間をかけて集めたというデザイン性の高い家具やユーモラスな雑貨が顔を覗かせ、石田さんの世界観を見事に表現しています。

気に入った石ころや流木を拾ってきてインテリアにすることも

壁材を剥がした時に残った接着ボンドも、あえてそのままに

「ここへ越してきて9年近く。気がつけば、愛着のあるものに囲まれた暮らしになっていました。僕にとって居心地のいい空間とは、自分好みの素材感や、好きなものに囲まれた空間。一つひとつの物に思い入れがありますし、いつも眺めていたいので、あまりしまい込まずに目につく場所に出すようにしています」

波板を貼った桟に自転車のチューブを渡し、本棚にしている

お住まいの中には、実は廃棄予定だったアイテムもたくさん。聞けば、幼少期から工具片手に押し入れや二段ベッドを改造するような DIY少年だったそう。タイヤが入っていた木箱に蝶番をつけて収納にしたり、使用済みの自転車のチューブを使用してトイレに洋書の棚を作ったり、石田さんは役目を果たしたものに手を加え、新たな“役割”を与える達人です。

イタリアの自動車ブランド・アバルトの木箱は、洋服やパジャマを入れる収納として大活躍

「“これ何かに使えないかな?”“こうするとよくなるかも?”と工夫するのが好きなんですよね。僕の中では、住まいは実験の場でもあるんですよ」とにっこり。ものに新たな役割を与え、創造する楽しみを教えてくれました。

プライベートと仕事が「家」を通して、相乗効果を生んでくれる

リノベーションの経験が『toolbox』に出会うきっかけになったという石田さん。自身の住まいでは予算やスペースの関係で断念したアイデアを、仕事を通して具現化することも多いといいます。

「ショールームの作成を担当させてもらったのですが、家でやりたかったことを随所に取り入れています。例えば、銅管と木板で棚を作ってみたりとか。自分の頭の中に留めておいたものが世に出るというか、光を浴びるのは嬉しいですね」

「家づくりがキャリアを広げてくれた」という石田さん。そしてこの冬、ご夫婦の未来にも嬉しい“広がり”が。待望のお子様を授かり、現在は里帰り中の奥様と赤ちゃんを迎えるために、大忙しで準備をする日々。

「寝る環境はできる限り快適に整えてあげたいので、寝室に断熱材が入った壁を設けたいなって。今、まさに壁材やペンキの色を選んでいるところです。ほかにもリビングと玄関スペースの間にガラスの仕切りを入れたらどうだろう?とか、手元にあるものを使ってあれこれ実験しています(笑)。こうした住まいへの探究心って『toolbox』から影響を受けている部分も大きいと思うんですよね」

プライベートと仕事、住まいとパーソナリティがクロスする生き方。石田さんの暮らしを見ていると、そのすべてがいい影響を与え合っているように感じます。2人から3人へ。石田さんの“実験”は、これからも続きます。

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