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DATE 2020.12.02

“足りない”からこそ、満たされる。
渡鳥ジョニーさんが実践する、VAN LIFEの新しいカタチ。−VAN外編 後編−

ヒップなライフスタイルとして、日本でも着々と認知を広げつつあるアメリカ発祥のカルチャー、“VAN LIFE”。渡鳥ジョニーさんは、そんな暮らしを実践することで、誰もがうらやむ理想の住まいを手に入れた。生活空間としては小さなヴァンに住まうため、生活必需品は一部しか持ち運べない。だからこその“あきらめ”が、転じて、暮らしも働き方も豊かにしてきた。
かたや、どうしても、とこだわり抜いたモノもある。いうなれば、暮らしの個性。そこに上質さを一途に求めることで、住まいや暮らしが、いっそう深みを増してゆく。

前編はこちら
渡鳥 ジョニーさん

新卒で外資系の広告代理店に入り、Webエンジニアリングとデザインを担当。2007年にフリーランスになり、Googleのキャンペーンボーイとして全国各地をまわる。震災後には熊本へ移住し、その後2014年に「札幌国際芸術祭」への出展を機に札幌へ転居。現在はベンツをマイホームとして、妻のはる奈さんとヴァンライフを満喫しながら、定額制コリビングサービス「LivingAnywhere Commons」八ヶ岳拠点にて、プロデューサー兼コミュニティーマネージャーを務める。
Instagram , Van à Table , VLDK

あくまで、“家”として。
空間に役割をあたえること。

ヴァンのなかには、驚きの空間が広がる。後部ドアを開けると、そこは普通の家でいうところの“玄関”なわけだが、ちゃんと、玄関然としている。おなじように、キッチン、リビングといった空間が、ひとつづきになっていながらも、きちんと分けられている。いわずもがな、そこに仕切りや壁があるわけでもないのに。

「玄関マットを敷いて、右手には植栽やアロマを置けるちょっとしたスペースを設けました。奥のリビングスペースには、ソファがあって、足元にはラグを敷いてある。ちなみにベニワレンのラグは、縦横の寸法がぴったりなものと奇跡的に出合ったんです!」

「ヒッピースタイルが代表するような、いわゆるなヴァンライフ空間にはぜったいにしたくなかったんです。妻とも話し合って、北欧調にすることに。ライトやスイッチカバーといった細かなところまで、家で使われる物を徹底して選ぶことで、“車感”をかぎりなく消しました」

睡眠へのあくなき探求は、
ヴァンだからこそ。

ヴァンライフにおいて、“ぜんぶは持たない”ことで、ひとに頼る余白を楽しむ渡鳥さん。いっぽうで、どうしてもこだわりたかったものもあった。そのひとつが、ベッドだった。

「大げさに聞こえるかもしれませんが、全人類、寝ることに対してもっと真剣になったほうがいい。だって、人生の3分の1の時間を使っているわけですから。僕は、ヴァンだからといって睡眠の質を下げたくはなかった。そうしてたどり着いたのが、コアラマットレスです」

妻のはる奈さんと一緒に、こだわりの収納式ベッドを整えている渡鳥さん。

セミダブルタイプのベッドは、ソファとひとつづきになっているので、もはやダブルサイズ。大人ふたりが横になっても、たっぷり余裕がある。一般的なヴァンではベッドは出しっぱなしのことが多いものの、「どうしても煩雑に見えちゃうし、ずっと出ている必要はないので」と、収納できる設計にした。

ベッドを引き出すと、収納スペースが顔を出す。必要最低限の衣類が掛けられるようになっていて、あますところなく空間を活用する工夫がこらされている。

「運転の途中で眠くなったらサクッと仮眠がとれる。ヴァンライフって、かなり画期的です。自分の体にあったベッドなら、なおさら、疲れもしっかり取れますし。近い将来自動運転が普及すれば、もはや寝ながら移動できる、なんてことになるかも。ノイズキャンセリングならぬ振動キャンセリングなんて技術も、実はもうスタートアップ企業が開発していたりするんです!」

空間をかたちづくる、
アトモスフィアという魔法。

もうひとつ欠かせなかったこだわりが、スピーカーとアロマだという。実際、この暮らしをスタートするとき、まっさきに揃えたのがそのふたつだった。

「音や香りは、目には見えないけれど、空間を構成する要素と言えます。ヴァンという狭い空間だからこそ、そういったものが、奥行きや広がりを生み出してくれます。また、『ここからは自分の空間』と、外界との境界線をつくる役割を果たしてくれることも」

「場所によって変わる気分に合わせて、かける音楽も変えるようにしています。東京ならアップテンポな曲を、八ヶ岳なら自然に溶け込むようなダウンテンポなものや、アンビエントな曲を。そうした“気持ちに働きかける力”のようなものが、音や香りにはあるような気がしています」

その地の食材を、その地で食す。

妻のはる奈さんは、「Banana Kitchen」名義でフードデザイナーとして活動中。言わずもがな、ヴァンにもキッチンは完備されていて、そこで料理することも多い。けっして広いスペースではないし、車中での料理には、苦労や不便があるに違いない。と聞けば、「ふつうの料理と、さほど変わりません」とさらり平然。

ベッドや衣類しかり、小さな空間だからこそ、“仕舞える”ことへのこだわりが、ここにも。冷蔵庫代わりのクーラーボックスや、カトラリーを収納できるよう、引き出しはぴったりのサイズにあつらえた。

「妻は、18歳の頃に海外でバックパッカーをやっていたり、30歳の頃には南米を自転車でキャンプして回っていたり。そうした経験が豊富なぶん、特殊な環境での料理には慣れっ子なんだと思います」

「とはいえ、水をじゃぶじゃぶ流すことだってままならないので、家での料理とまるっきり一緒というわけにはいきません。それなりに工夫も必要。でも、訪れた土地土地の食材を買ってその日の献立を決めたり、大自然のなかでテーブルを囲んだりすることは、なににも代えがたい贅沢です」

課題はあっても、“答え”は明々白々。

ヴァンでの暮らしは、いたって快適。“持たない”がゆえの身軽さや研ぎすまされた贅沢さを享受し、衣食住の全方位で、上質な暮らしを実現している。とはいえ、もちろんヴァンならではの不便や課題もあるという。

「ソーラーパネルもバッテリーも積んでいる、いわゆる“オフグリッド”ではあるのですが、バッテリーの容量が小さいので、電源はそれほど長く持ちません。また、場所や地域によっては電波が弱いこともある。リモート会議直前に電波が弱くなってしまって出られなかった、というようなトラブルも経験しました」

「また、ヴァンは、いわば鉄板でできた家。冬はとにかく寒いんです。反対に、夏はオーブンで熱されるような暑さ。僕のヴァンには燃費のいいFFヒーターを入れているため冬は問題ないのですが、エアコンがないので、夏が課題。エアコンがあったとしても、バッテリー容量が小さくて使えないんですよね……」

そうした問題に対しては、解決策がすでにあるという。水を浄化する仕組みや、省エネのエアコン。新しい技術やプロダクトは、ぞくぞくと開発されているところだから、あとはその成熟を待つだけ。……かと思いきや、自身の生活を投じることで、渡鳥さんはヴァンライフ文化そのものに貢献しようとまで考えている。

「新しい技術やプロダクトは、ニーズが高まるほど生まれてくるもの。僕が率先してヴァンで暮らすスタイルや文化を体現すれば、それを後押しできると考えています。その一環として、『LivingAnywhere Commons 八ヶ岳北杜』をリビングラボにする構想があります。デジファブ工房を導入し、暮らしながら新しいライフスタイルに必要なプロトタイプを作れる場所にしていきたい」

ミニマルな住まいの極致とも言える、ヴァンライフ。小さな空間だからといって、けっして窮屈にならないのは、とりもなおさず、自分のこだわりを見極め、上質さを突き詰めるがゆえ。また、きたるべき未来をつねに見据え、みずからの手でたぐりよせるから。
ミクロとマクロの目線が交差することで、ヴァンライフの文化そのものが、ここ八ヶ岳から開かれていく。
LivingAnywhere Commons

全国10拠点(※)に展開している多拠点コリビングサービス。場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約にしばられることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方(LivingAnywhere)の実践を提唱している。同サービスのメンバーになることで、日本各地に設置したLivingAnywhere Commonsの拠点の共有者となり、仲間たちと共生しながら、自宅やオフィスにしばられないオフグリッド生活を体感、理想のLivingAnywhereを実現するための技術やアイデアの共創、刺激に満ちた環境に身を置くことができる。
https://livinganywherecommons.com/
※2020年11月現在

Photography/原田教正 Text/髙阪正洋(CORNELL)