土井地博 DATE 2020.10.06

最初から100点じゃなくていい。
こだわりあるからこそ作りすぎない、BEAMSコミュニケーション ディレクター 土井地 博さんのご自宅 。ー後編ー

セレクトショップの草分けでありながら、いまなお業界の先頭をひたはしるBEAMS。BEAMSの顔として20年来宣伝PRを行い、現在はグローバルアライアンス部を統括する土井地さん。
家の中心的存在は、一風変わったつくりのリビング。家族みんなが同じ時間を共有できる工夫がこらされている。また、過去を継承しつつ、家族の成長や未来に目を向ける土井地さんの変化も、そこかしこに散りばめられている。

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土井地 博さん

1977年生まれ。BEAMS 執行役員 経営企画室 グローバルアライアンス部長 兼 コミュニケーションディレクター。ラジオ番組「BEAMS TOKYO CULTURE STORY」のパーソナリティも務める。

狭小住宅というデメリットを、転じて、心地よい無二の空間に。

リビングの作りは、少々変わっている。まず、直方体の空間を挟み込むように、両側に大きな窓。窓の向こうは、庭とベランダの中間くらいの、ちょっとしたスペースになっている。

「窓を両側につけるというのは、施工会社さんのアイデアでした。暮らしてみると、リビングが窓の外まで伸びているような不思議な感覚が気持ちいい。おまけに、天井も上階の高さまで抜けているので、平米数よりもうんと広く感じる。都会の狭小住宅に抱いていた不安を、そんな工夫が解消してくれました。だからこそ窓にはカーテンもあえてつけず、代わりに植栽を並べて目隠しにしています」

「両方の窓を開けると、気持ちいい風が通るんですよ。僕のチルタイムといえば、そんなリビングで、近所のコーヒーショップで買った豆で淹れたコーヒーを飲む時間です」

アイランド型キッチンは、
家族が同じ時間をともにするための装置。

そんなリビングのなかで主役級の存在感を放つのが、アイランド型のキッチン。そこには、奥さまのこだわりが詰まっている。

「実は、キッチンの内側(調理場側)と外側で、床の高さを変えてるんです。外側の椅子に座って、キッチンの内側に立つひとと向かい合うと、ちょうど目線が合うように。ここでご飯を食べることもあれば、娘たちの勉強机になったり、家族が団欒する場所になったり、きっとここがリビングの中心になるんじゃないかと、なんとなく想像していました」

インテリア選びの秘訣は、
空間の“抜け”にあり。

これまでたくさんの名品に触れてきた土井地さんではあるが、だからといって、家に並べるのは一級品ばかりではないという。「ただ、モノを選ぶ」のと「インテリアとしてセレクトする」のとでは、どうやらまた異なる感覚が必要になってくるのらしい。

「照明ならコレ、テーブルならコレ、と自分のなかに、モノ選びの正解はもちろんあります。でも、そうした“正解”は、インテリア選びにおいてはある程度の指標にとどめておくのがいいような気がする。これからまた自分が変化していくことへの期待も込めて。その可能性を楽しみたいと思っています」

インテリア選びの秘訣について聞くと、曰く「とくに最近は、“抜け”を気にするようになりました」。

「モノそれ自体ではなく、たとえば『リビングのここに置いたときに、どう見えるだろう?』といった空間の抜け。“余白”と言い換えてもいいかもしれません」

先ばかり見ず、ときに過去を振り返ってみる。
家族と共有していく。

「家を建てたばかりですが、いずれもういちど建てたい。そう思っています」。さらりと、そう言ってのける土井地さん。建ててみてわかることもあれば、学ぶこともある。その言葉に、BEAMSで数々のコラボレーションやコンテンツを手がけてきた功績と、天井知らずのエネルギーを垣間見る。

いっぽうで、「ジジくさいですが、いろんなモノやコトを経験したからこそ、いまは先ばかり見ず、ときには過去の思い出や経験を顧みたい」とも話す。

「僕が19歳のときに買った、香港のアーティストの作品集があるのですが、いまでは、それを娘たちが手にとって眺めています。僕が若い頃に好きだったものを、そんな風に娘たちと共有できるとは、思ってもみなかった。そうした感覚の共有は、インテリアや空間においても、きっと同じ」

「昔は、ただ『自分が欲しいから』とモノを選んでいた。いまでは、そこに“家族”というフィルターがある。そういう意味では、20代、30代の頃に培ったものを大切にしながら、同時に、家族の成長によって付け加えられていくものを楽しみたいですね」

着々と積み重ねてきた過去を、空間づくりやインテリア選びの指針として頼りにしつつ、自身や家族の成長とともに変わっていく価値にも、ひとしくオープンでいること。過去と未来、自身と家族……、そうした一見相反する価値基準が、家を建て、家族とともに暮らしていくなかで得た土井地さんのいまの等身大。そして、きっとこれからも。

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Photography/原田数正 Text/髙阪正洋

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