圷みほさん
2015年より「毎日の暮らしを少し楽しくする'衣・食・住'」をコンセプトとしたWebショップ「acutti」を主宰。インテリアや暮らしのアイテム選びなどがInstagramで人気を博し、さまざまなメディアで活躍。2017年にフルリノベーションした家をテーマにした書籍『かごと木箱と古道具と。日々をいろどる"もの"選び(ワニブックス刊)』を2020年1月に出版。
acutti, Instagram
神奈川県にある、築40年超のゆったりとした時間の流れる大規模な集合住宅。その一角をフルリノベーションして家族3人で住まう、ウェブショップ「acutti」店主の圷みほさん。シックなチャコールグレーの壁にステンレスのキッチン、むき出しのコンクリート天井といった硬質な要素の中に、かごや古家具、ドライフラワーなどのナチュラルなインテリアが上手にマッチしています。
家をリノベーションする時も、2015年にacuttiを始めた時もルールは同じ。“本当に良いと思ったものだけを取り入れる”を徹底していたそうです。
「自分の好みを『〇〇系』という括りではなかなか言い切れないのですが、思えば小さな頃から『みんなと同じ』が嫌で、違うものを持ちたがっていた子どもでした。好みがはっきりしていたんですね。それもあってか、わが家のインテリアはほとんどが古家具です。古家具には、⻑い年月を経たもの独特の佇まいや物語があって、人とかぶらないところが気に入っています。
そういえば、Instagramを始めたときのルールも『好きなものしかアップしない』でした。好きなものに囲まれることで、更に好みがはっきりするようになったと思います」
圷さん、実は元々まったく違うIT系の仕事をしていたのだとか。
「今後のことを考えたある時、『自分の好きなことをしながら子どもとの時間を作りたい』と考えるようになりました。そこでカフェや雑貨屋をしたいと思い、会社を退職。まずはインテリアショップに勤めてその準備をしたのが8年ほど前です」
そんな「好き」が詰まった圷さんのお宅は、約12畳のダイニングキッチンと、リビングが中心。集合住宅のリノベーションを選んだ理由は、友人の影響だったと言います。
「近所に、集合住宅をフルリノベーションした友人家族が住んでいて、壁も壊して広々と気持ち良さそうに暮らしているんです。それに元々、緑が多い今の家のエリアが気に入っていて、この地域で物件を探そうと思っていたのもあり、リノベーションという選択をしました。
この家は窓とベランダが2面にあって、風通しも良くて気持ちいいんです。自然の光がすごく好きなので、日中は自然光をたっぷり取り入れて、夜は最低限の明かりで自然と眠たくなる。このサイクルがとても好きですね」
「夫は『どこかに必ずコンクリートを入れたい』と言っていたんですが、私は『全部コンクリートはちょっと嫌だな』と思っていて(笑)。それで、部屋に白壁をつくってバランスを取りました。それとステンレスキッチンは、絶対に取り入れたかったんです。コンクリートやチャコールグレーの壁の雰囲気と合って、日本の土間みたいな雰囲気も出ましたね。
それぞれの好みはもちろんあるから、意見が食い違う時はよく話し合って共通の『好き』を見つけるようにしています。どんなにちょっとしたものでも、新しいものを家に置く時はしっかり吟味するなど、家族みんなが心地よい空間でいられるようにしています」
もう片側の窓辺にあるリビングは、小上がりが主役のお部屋。
「小上がりも絶対に取り入れたいと思っていました。子どもが遊べるスペースを作りながら、下の引き出しに隠す収納もできてとても便利。家に面白い変化が出て、作ってよかったと思っています」
天井にところどころ、棒を通したりフックを掛けられる「丸カン」がしてあるのも特徴的。小上がりを囲うように付けられた丸カンには大きな布をフックで掛けて、お客さんが家に泊まる際、小部屋のように空間を仕切ることもできるし、作家さんのオブジェや植物などを掛けることもできるといいます。
「使っているのは、ホームセンターで1セット200円程度で購入したナットと丸カンです。作り付けの中にも、メルカリ、ネットショップで見つけた手ごろなものも取り入れています。インテリアがすべて古道具なので、ユーズドのものも馴染みやすいですね」
「リノベーションそのものにはたくさんリサーチをしてイメージを固めていたのですが、 物件の購入をしてから、なんと『お願いできる施工会社さんが限られている』という事実に直面しました。お世話になった昔ながらの工務店さんは、フルリノベーションの施工が私たちが初めて。イメージを伝えるために何度も設計図を絵に書き、希望を伝えました。
初めは少し不安に思っていましたが、例えば玄関上のライト(写真 左)を取り付ける時は、台座として木を丸く切ってライトを取り付けてくれるなど、職人さんならではの提案をしてくれました。知識と経験がある地元の大工さんとお付き合いができて、結果的に安心感がありました。今でも、玄関のライトを見るとあの大工さんを思い出します」
photograph/原田 数正 text/立石 郁