渡辺礼人さんご夫妻
2010年3月に、礼人さんが中目黒のカフェの一角で、屋根も扉もない庭のような花屋<farver>を始める。その2年後、同じ中目黒に移転し、〝secret garden〟をテーマに再スタートを切る。ショップを拠点にし、ブライダルをはじめとする空間スタイリング、ワークショップ、各種セミナー、商品開発など多方面で活動を行う。
farver
2010年3月に、礼人さんが中目黒のカフェの一角で、屋根も扉もない庭のような花屋<farver>を始める。その2年後、同じ中目黒に移転し、〝secret garden〟をテーマに再スタートを切る。ショップを拠点にし、ブライダルをはじめとする空間スタイリング、ワークショップ、各種セミナー、商品開発など多方面で活動を行う。
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礼人さんが花屋になることを決めたのは、好きなものに対するちょっとした気づきからだった。
「好きなことが仕事につながるのが一番だと思って、なんだろうって考えた時に、花柄の服が好きだなーって。ちょっと花屋さんを見てみよう、と思って街を歩いてたらお店があって、ディスプレイがかわいかったんです。そこで採用してもらったことが始まりですね」
「お花のテキスタイルが好きで、スカーフをいっぱい持ってるんですよ。最近はようやく立体で活かせるようになってきたんですけど、やっぱり平面で見てるのかもしれない。作る花束も、色の組み合わせとかが『絵画みたいな世界観』って言われることもありますね」
最初にいいと思うものの基準は、フォルムや香りではなく色。そんな礼人さんの美意識がそのまま表われているかのように、<farver>の内装は美しい色に溢れ返る。
「単純にインテリアが好きっていうのもあるんですけど、お店を作るのもすごく楽しかったりするから、模様替えをよくしています。お店をやってきたことが、家づくりにも影響してるなっていうのは感じますね」
「植物を飾る時には、全体に質感をミックスさせることが大切」と礼人さん。また、その手法は自宅のインテリアにも活かされている。
「空間に合った飾り方ってあるんですよ。観葉植物と切り花とドライフラワーのバランスってすごく大事。観葉植物って花を咲かせますけど、期間は短いんですよね。そうすると、家の中がグリーンメインになってしまう。けど、そこに切り花を足していくと季節感が出るし、ドライフラワーはややオブジェに近い質感なので、全体にしっくりくるようになる」
リビングがある自宅2階では、空間を広く立体的に見せられるよう、グリーンを活かしたテクニックがあちこちに見られる。
「奥行きだったり高低差だったり、植物を配置する場所を意識しています。ベランダと部屋の内外にグリーンを置くことで、外の風景を中に引っ張ってもこれるし、中の風景を外と連続させて見せることもできる。花を飾るのも、目線より高い位置、テーブルについた時によく見える位置、少し低い位置に置いて、ジグザグに目がいくようにしてます」
玄関や書斎、リビングにずらりと並んだ花器ひとつひとつにも、礼人さんのセンスが光る。
「仕事道具ですからたくさんあります。選ぶうえでおすすめなのは、なにかしら主張してるもの。シンプルなデザインのものって、どんな花でも合いやすいんですけど、何も生けてないと生活の中で見えなくなっちゃう。だったら、花がなくても愛でることができて、『あ、今日はこれに飾りたいな』って思えるもののほうが、生ける頻度も変わってきますよね」
「花の選びや生け方ひとつにもその日のメンタルが出ます」と、奥さんの安樹子さん。自宅に花を飾ることは、今の自分に向き合うための手軽なセルフケアともいえそうだ。
「年々いろんな花が好きになってます。普段は、主人が仕入れてきたお花を、それぞれが好きに飾ってます。主人のほうが長く花屋をしてきているので、『あ、こういう生け方があるんだ〜』って勉強にもなるし、わたしが生けたのを『それ、かわいいね』 って言ってもらえたりもする。お花から夫婦の会話も増えますね」
グリーンに優しい設計があちらこちらに凝らされていて、フレッシュな生命力に溢れている渡辺家。
「植物には水と光が不可欠っていうのはみなさん知っているんですけど、実は一番大切なのって風の抜けなんです。植物が育つ屋外にはぜったいに風が吹きますよね。空気がこもってしまうと、虫や病気が発生しやすいとか、いろんなデメリットがあるんですよ」
Photography/原田数正 text/白﨑寛子