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“足りない”からこそ、満たされる。
渡鳥ジョニーさんが実践する、VAN LIFEの新しいカタチ。−VAN外編 前編−

DATE 2020.11.16 ようこそ私の家へ
VANLIFE 車
“VAN LIFE”。まだ、耳慣れないひとも多いだろうか。もとはアメリカで発祥したカルチャーだが、近年のアウトドアブームに背中をおされるかたちで、ここ日本でも、ヒップなライフスタイルとして着々と知れ渡っている。

とりわけ、いまの生活様式に合った暮らしかたの選択肢のひとつとして、ワーケーションやヴァンライフに注目したい。
そこで話を聞いたのは、カーリノベーション(車のリノベーション)をして、ヴァンライフを謳歌する渡鳥ジョニーさん。“家を持たない”という選択をしたことで、誰もがうらやむ理想の住まいを手に入れた。ヴァンは、それまでの生活のほんの一部しか持ち込めない、小さな箱。だからこその“あきらめ”が、転じて、暮らしを、働き方を、うんと豊かにした。
渡鳥 ジョニーさん

新卒で外資系の広告代理店に入り、Webエンジニアリングとデザインを担当。2007年にフリーランスになり、Googleのキャンペーンボーイとして全国各地をまわる。震災後には熊本へ移住し、その後2014年に「札幌国際芸術祭」への出展を機に札幌へ転居。現在はベンツをマイホームとして、妻のはる奈さんとヴァンライフを満喫しながら、定額制コリビングサービス「LivingAnywhere Commons」八ヶ岳拠点にて、プロデューサー兼コミュニティーマネージャーを務める。
Instagram , Van à Table , VLDK

生活必需品は、 かならずしも必要ではない。

まずは単刀直入に、ヴァンライフの魅力について聞いてみた。すると、「ひととのつながりでしょうか」と即答する渡鳥さん。「ヴァンライフ=たんなる車中泊ではない」とは知っていたものの、ヴァンで暮らすことでひととつながるとは、いったいどうしてだろうか?

「さまざまな場所に移動して、コミュニティーに身軽に入っていくことができる。行動範囲も広がるし、長く停泊することもできるので、より深く入っていきやすい気がします」

「ヴァンライフにおいてとくに意識しているのは、“すべてを持たない”ということ。生活にとって足りない部分を、残しておく。そうすることで、必然的にひとに頼ることになりますよね。ひとに頼ると、新たな関係が生まれる。それが、ときに仕事につながることだってあるんです」

暮らしと仕事がゆるやかにつながっている

いま、渡鳥さんは長野県北杜市の八ヶ岳に停泊している。というのも、2020年6月にオープンしたばかりの「LivingAnywhere Commons 八ヶ岳北杜」を運営するのが、彼の仕事のひとつだから。いっぽう、フリーランスWEBデザイナーとして、企業のECサイト構築なども請け負っている。

「LivingAnywhere Commons 八ヶ岳北杜」に設置している、ワーケーションに活用できる可動式の小屋。もともとこの場所がボーリング場だったため、オブジェとして本物のピンが置いてある。

「ヴァンなら、どこでも働きながら暮らせます。景色のいい場所に行ってもいいし、暑ければ、標高の高いところに避暑に行くのもいい。そうした働き方、暮らし方は自由そのもので、そしてヴァンライフならでは」

流行りの言葉でいうところの、“ワーケーション”。渡鳥さんにとってはヴァンライフをはじめる前からのライフスタイルだったが、ヴァンを手に入れたことで、働き方は加速度的に充実した。今後、ワーケーションがよりいっそう一般的になることを願ってもいるいっぽうで、現状については、いたって冷静に眺めてもいる。

「ワーケーションという言葉だけがひとり歩きして、ちゃんと実践できているひとは多くありません。たとえば、『休暇で温泉に行って、篭って仕事をする』といった解釈をしているひともいる。それでは、休みの日に働いているのとなんら変わらないですよね」

「ワーケーションとは、オン・オフを細かく繰り返しながら暮らすこと。個人的にはそのように捉えています。疲れたから森のなかで仕事をして、気分を切り替えよう。休憩がてら、ちょっと川のほうに行ってみよう。今日はみんなで集まって、焚き火をしよう。そんな風に、暮らしと仕事がゆるやかにつながっている状態。それがワーケーションだと思っています」

理想の家が見つからないから、
自分でつくるしかなかった。

そもそものはなし、渡鳥さんがヴァンライフをはじめたきっけかは“離婚”だった。当時の妻と子どもと北海道で暮らしていた渡鳥さんは、離婚を機に東京に戻り、新しく生活をスタートすることに。とはいえ、理想の住まいを得るには制約やハードルがとにかく多いのが東京。とりわけ「Casa BRUTUSに載っているような別荘暮らしへの憧れがあった」渡鳥さんだけに、はたと立ち尽くした。

「理想の家のイメージはあっても、並大抵の努力では手に入らない。このさき時代がどうなっていくかもわからないなか、35年ローンを組むなんてことも、僕にはできなかった。“そっち”じゃないな、という感覚は、そもそも20代の頃から漠然と持っていました」

助けになったのが、東日本大震災をきっかけに熊本に移住したときの経験だった。築120年以上のお化け屋敷さながらの古民家を、地元のひとたちの手を借りながらDIYで再生。家賃3万円で、理想の一戸建てを手に入れることがかなった。

「自分の欲しいものが“カタログ”にないなら、作るしかない。そのことに、熊本の経験で気づくことができた。その後は、北海道で両親の家をエコハウスに改修するプロジェクトなどもおこないました。そのスタイルをかれこれ10年くらい続けていて、ヴァンライフも、あくまでその一環なんです」

ないなら、つくる。マイナスを原動力に、大胆にプラスに転じる発想力と実行力。それを脈々と繰り返し、ヴァンライフという理想の住まいを得るにいたった。小さな住まいゆえ“ぜんぶは持てない”。ともすれば弱点になる不便にあらがわないことで、ひととつながる“余白”が生まれることにも。
後編では、インテリアや家具といった住まいのディテールに焦点をあてる。そこには、けっして多くを持たないがゆえ、上質さを丁寧に追い求める姿勢、“家”以上に快適に住まうための工夫があった。
LivingAnywhere Commons

全国10拠点(※)に展開している多拠点コリビングサービス。場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約にしばられることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方(LivingAnywhere)の実践を提唱している。同サービスのメンバーになることで、日本各地に設置したLivingAnywhere Commonsの拠点の共有者となり、仲間たちと共生しながら、自宅やオフィスにしばられないオフグリッド生活を体感、理想のLivingAnywhereを実現するための技術やアイデアの共創、刺激に満ちた環境に身を置くことができる。
https://livinganywherecommons.com/
※2020年11月現在

Photography/原田教正 Text/髙阪正洋(CORNELL)