ルーカス B.B.さん
1971年、アメリカ・ボルティモア生まれ。サンフランシスコ育ち。1993年に来日、1996年にニーハイメディア・ジャパンを設立。カルチャー誌『TOKION』をはじめ、トラベルライフスタイル誌『PAPERSKY』、キッズ誌『mammoth』など、数多くのメディア創刊にクリエイティブディレクターとして関わる。また、ファミリー向け野外フェスティバル「マンモス・ハローキャンプ」や日本各地を自転車で巡る「ツール・ド・ニッポン」のイベント企画やプロデュースなども手掛ける。
1971年、アメリカ・ボルティモア生まれ。サンフランシスコ育ち。1993年に来日、1996年にニーハイメディア・ジャパンを設立。カルチャー誌『TOKION』をはじめ、トラベルライフスタイル誌『PAPERSKY』、キッズ誌『mammoth』など、数多くのメディア創刊にクリエイティブディレクターとして関わる。また、ファミリー向け野外フェスティバル「マンモス・ハローキャンプ」や日本各地を自転車で巡る「ツール・ド・ニッポン」のイベント企画やプロデュースなども手掛ける。
家の裏手には、庭がある。四方を囲まれているところにぽっかりと現れるプライベートな自然風景は、しんと静謐ながら、親しみやすさがある。
「前の住人はほとんど手入れしていなかったようで、もともとは、あまり素敵な庭じゃなかったんです。でも、僕は土いじりが好きだったので、少しずつ手を加えていった。池をつくって、ジャスミン、桜、柿といったほとんどの木も、自分で植えて。元々あった庭木も、2倍くらいに伸びましたね。賃貸なので家のなかは大きく工事できませんが、庭は、わりと自分の好きなように作り変えています」
2年前には、縁側もつくった。そこに座って朝ごはんを食べたり、コーヒーを飲んだりするのが日課だとか。日本の古きよきゆたかな暮らしを、ルーカスさんは大都会のかたすみに手に入れた。
よく言ってしまえば“オールドファッション”だが、とはいえ築70年以上の木造家屋。最新鋭の住宅のようなつくりは、そもそもされていないし、いたるところにガタもきていることだろう。それに、彼の生まれ育ったカリフォルニアとくらべると、住まいとしては窮屈なはずだ。不便やストレスはないのだろうか。
「窮屈しないような工夫はしています。たとえば植物を置くことも、そのひとつ。それに家自体も、木や土といった自然の材料でつくられているからか、不思議と息が詰まらないんです」
「もちろん、冬は寒いですよ。断熱窓でもなければ、気密性も低いので。でも、そういうときに役立つのが、日本の伝統的なアイテムだったりします。これは“ねこ”といって、南木曽地域の伝統工芸品。僕は街道を歩くのも好きで、以前中山道に行ったとき、その地域のおばあちゃんたちがみんなこれを着ていたんです。「なんですか?」と尋ねて、ひとつ譲ってもらった。背負うだけなので、防寒性がありながらパソコン作業もしやすい。現代においても、理にかなっていますよ」
いっぽう、日本家屋ならではの魅力については、「オプションがいっぱいあること」と、きっぱり。
「いまは2階の小上がりスペースを畳部屋にしていますが、以前2階を事務所として使っていた頃は、ここはフローリングでした。おなじ空間でありながら、ちょっとしたところを気軽に変更できて、いろんな暮らし方ができる」
庭に縁側をつくることで、そこで過ごす時間が増えたのにも、おなじことが言えそうだ。1階の事務所や2階の畳部屋で使われているUSMのキャビネットも、好きに組み替えられる仕様が、とりわけ気に入っているのだという。
「『知れば知るほど、知らないことを知る』とはよく言いますが、それは暮らしにおいても一緒かもしれません。住むほどに自分の目が肥えてしまうので、『もっとこうしたい、ああしたい』という欲が出てくる。
日本家屋は、そんな気持ちの変化にも柔軟に対応してくれる。それは、狭さゆえかもしれませんね。スペースが限られているから、ベッドを置くより、出したり仕舞えたりする布団を使う。限られた空間のなかで暮らしていく必要があるからこその、柔軟性」
純和風の日本家屋をベースとしながらに、USMのキャビネットをはじめ、ブルートゥースのターンテーブル、ライフワークのひとつでもある自転車、世界各国の民芸やスーベニア的置物、北欧風のテキスタイルをつかったクッションや食器。和と洋がじつに絶妙なあんばいでミックスされた空間は、雑多なのにととのっていて、居心地がいい。そのミックス感を端的に象徴するのが、2階の住居スペースにあるGEORGE NAKASHIMAの家具かもしれない。
「GEORGE NAKASHIMAのプロダクトは、とりわけ大好きなもののひとつです。こと和洋折衷においては、彼は日本でも先駆ですよね」
「畳部屋にあるローテーブルは、じっさいに彼のアトリエを訪れたときに木材の種類からオーダーしたもの。彼のプロダクトは、見た目も素敵だし、使うと気持ちいいんですよ。歳のせいか最近は立って靴下を履くのが大変になってきたのですが、もっぱらこの椅子に座って、毎朝靴下を履きます。高さがちょうどいいのもそうですが、わざわざそうしたくなる、不思議な魅力がある」
日本人だってうらやむほどの、“和”の捉え方とアレンジ。そのバランス感覚のゆえんは、なんだろうか。キッチンで、ルーカスさんの料理との向き合いかたについて聞いているときに、そこにも通じると、はたと思い至った。
「よく料理もしますが、僕のつくる料理は、日本のものでも海外のものでもないんです。冷蔵庫を見て、そのとき食べたいものをなんとなく思い浮かべながらつくる。レシピがあって、正しくなにかをつくるのではない」
“和”、“洋”という分け隔てすら、たぶんない。あくまでルーカスさん流であり、だからこそ住まいのいたるところに、彼らしい静謐な親密さが宿っているのかもしれない。
Photography/原田教正 Text/髙阪正洋(CORNELL)